登入水浴び休憩が終わり、俺達はエメラルドドラゴンのエリアを進んでいた。 先程までの極寒地帯とは打って変わり、空気は生暖かく湿っている。 洞窟の中とは思えないほど草木が生い茂り、足元には柔らかな苔が広がっていた。 まるで大自然豊かな森を彷彿とさせる、ダンジョンエリアとなっていて罠も無ければ、襲ってくるモンスターさえいない。 逆にそっちの方が不気味感がある、周りは木々があるせいで歩く場所が無い。 だが真っ直ぐ続く獣道のせいで、俺達は誘われているのだと覚悟している節がある。 だから皆、ここまで来ても言葉を発する者が誰1人として現れない。 天井から垂れ下がる蔦は淡い緑色に発光し、まるで森そのものが呼吸しているように脈動している。「……ふぅ。今度は森林エリアか。ダンジョンの中とは思えんな」 静寂を破ったリチャード王が周囲を見回しながら呟く。 確かに異様だった。 さっきまで氷に閉ざされていた空間から、数分歩いただけで巨大森林地帯へ変貌している。 しかも――妙に静かだ。 鳥の鳴き声もない。 虫の羽音すら聞こえない。 あるのは、草木が揺れる“ザワ……ザワ……”という不気味な音だけ。「皆さん、気を付けてください。この森……私達の魔力を吸っています」 ニーナの言葉に、全員の表情が変わる。 言われてみれば、体内の神魔力が僅かに削られている感覚があった。 地面を一歩踏み締めるだけで、魔力が地面に流れていく感覚があり、それは周りの木々に循環していた。「コレは……?」 俺の肩に粘っとした液体が垂れてきて上を見上げるとーー「食人植物!?」 木々の枝から絡み、ハエトリ草みたいななのが吊り下がり、俺に向かって薔薇状の鋭い蔦が上下のギザギザ歯を彷彿とさせている。 ヴィクトリアが食人植物に向かって、炎を纏った剣で切り裂いてくれて助かった。『ご無事で何よりです。マスター』「ありがとう」 周りの天井を見上げると、冒険者達が数多の食人植物に捕まり魔力や、体液を吸われてミイラ化していた。 シグルーンは襲い掛かる植物を、火属性付与した剣で切り裂きながら答える。「私達も気をつけないと、ミイラになるみたいね」「おっと、俺の事は気にしなくても平気だぜ、《鋼鉄化》!」 土属性魔法発動したリチャード王は、体を性質変化させて鋼鉄に変えてハエトリ草から身を守った。
ルビードラゴンの部屋を後にして、俺達は次の通路へと進んでいた。 だが、数分も歩かない内に異変が起きる。「……寒い?」 吐いた息が白く染まり、洞窟の壁には霜が張り付き始めていた。 先程まで鉱山特有の熱気が籠っていたはずなのに、今は真冬の吹雪の中へ放り込まれたような寒気が全身を刺してくる。 足元を見れば、水溜まりが凍結して透明な氷へと変わっていた。「これは間違いなくサファイアドラゴンの仕業ですな」 ゼルンが肩を震わせながら、白い息を吐く。 さらに奥へ進むと、洞窟の景色そのものが変貌していた。 鉱石だらけだった岩肌は、青く透き通る結晶に覆われている。 天井からは巨大な氷柱が無数に垂れ下がり、壁にはサファイアの鉱石が隆起していた。「綺麗……」 セレナが思わず声を漏らす。 まるで氷の神殿。 だが、その幻想的な景色とは裏腹に、空気中に漂う冷気は明確な殺意を持っていた。 アンデッド兵士の一体が前方へ進んだ瞬間――。 パキィィン‼︎ 突如、青白い閃光が走り、兵士の半身が一瞬で氷結する。 閃光が放たれた場所を見ると、綺麗な蒼白色の鱗をしたドラゴンの群れがいた。 これはロックドラゴンがサファイアを食べて「フロストドラゴン」に成長した姿らしい。 両翼を羽ばたかせるな否や、空気中の水分を瞬時に凍結させて「氷の礫」を大量に放ってきた。 氷の暴風で更に凍えそうになり、呼吸をしただけで肺にも氷のダメージを与えようとしていた。「ローリエ、お願い!」 俺の魂から出てきた1人娘ローリエ……と共にモードレッドが一緒に出てきた。『はい、クロエお母様!』「任せてください、クロエお義母様!」 ローリエはともかくモードレッドは神魂教に入り、俺を信仰してくれた事で神聖体になれたみたいだな。「全ての敵を一ヶ所に集めます! 《グラビティーホール》」 ローリエが神聖魔杖を掲げると、漆黒のブラックホールが発生してフロストドラゴンの群れは羽ばたいても、引っ張られる重力からは流れる事は出来ず。 各一定の場所に集められた瞬間。『灼熱の暴風に飲まれなさい。《フレアストーム》』 ローリエが放った火・風属性混合魔法により、炎の暴風に飲み込まれて弱点である火属性ダメージを与える事ができた。 フロストドラゴンの群れを倒しても、このエリアの凍えるような寒さが消える事はなか
休憩を終えた労働者達が鉱山の中に戻って行く最中、俺達はロックドラゴンが現れたダンジョンゲートを見つめていた。 監督官の男が、額の汗を拭いながら説明してくれた。「このダンジョンゲートの中はどうなっているか分かりません。中に入って行った冒険者達は戻って来た事がありませんので」「ロックドラゴン程度なら冒険者パーティでも倒せたみたいだけど、。三種ドラゴンは倒せなかったんだな」 ダンジョンゲートに潜入してみる事にした。 中は鉱山と変わらない洞窟型のダンジョンとなっている。周囲には破壊された採掘道具、壊れた武器。 中には喰い殺された冒険者の遺骨が転がっている。それだけで、この先の危険度が嫌でも伝わってきた。 地図を展開すると広大となっていて、まだ未攻略だからマッピングすら出来ていなかった。「とりあえず皆、攻略をお願いするよ!」 俺の魂から亡者騎士団・戦闘モードの二足歩行型兵隊アリ達がダンジョン攻略を開始してくれた。 アンデッド兵士達が進む度に地図が徐々に広がって行き、敵と認知された赤く光るロックドラゴンの点滅が消える。 地図を皆に共有してあり、それを見たリチャード王が答えた。「俺達はただ歩いてるだけかよ! こんな冒険者共は見た事ないぞ。それにダンジョンマップまで見えるなんて……普通は迷子になったりして、トラップを警戒したりするもんだぞ?」「トラップも予め皆がわざと引っかかったお陰で、後から来る私達は発動しないので大丈夫ですよ」 足元のスイッチを押された後があり、天井からドラゴンの炎のブレスが発動して焼け焦げた大地となった場所、氷のブレスで大地が凍結した場所等がある。「他の冒険者達も罠に引っ掛かったんだな」 焼け焦げた遺骨・未だ凍結されたままの冒険者達を弔いながら進む。「地図をみると三つの部屋に、それぞれドラゴンがいる可能性がありますね」 真っ直ぐ進むとルートに別れていて、ロックドラゴンよりも大きいのが三つ点滅していた。 他の兵隊達もドラゴンと戦闘しているのか、急激に神魔力量の減りが早くなった。 一つ目の開いた部屋に進むと、竜の鱗状となったルビーが精製されたルビードラゴンがアンデッド兵士達をルビーの鉤爪で切り裂いていた。『グルギャオオオオオオオオッ‼︎‼︎』 ルビ
ラヴレスト城を出発して半日。 馬車の窓の外に広がる景色は次第に緑を失い、岩肌色に変わっていく。 様々な鉱山地帯となっていて、労働者達も奴隷として雇われた人達も共に仲良く採掘作業をしていた。 そして――鉱山国家ラヴレストの中心部。 地面は黒く、空気はわずかに金属の匂いを含み、遠くからは絶え間なく響く採掘音が重なっている。「ここが目的の鉱山。奴隷と言うからには、過酷で強制的に無理やり働かせたり、動けない奴隷には鞭で叩く……何て事を想像してたのですが……」 向かい席に座っているリチャード王は、眉間に皺を寄せて怪訝な表情で俺を見て答えた。「それは数世代前の奴隷達にやらせていたらしいな。だが、そんな事をすれば採掘の時間が勿体無い。いかに効率良く、勤勉に働いてくれるかが問題だからな。たった半月で採掘ノルマも達成……していたんだ」 リチャード王は静かに鉱山の奥を指差した。「問題の場所は、あそこだ」 ゼルンが息を呑む。 鉱山にはダンジョンゲートが発生していて、数体のドラゴンが出現して暴れていた。「アレはランクBのロックドラゴンです。岩や鉱石を主食としていて肌も岩石となっていて、体から鉱石を精製するのが特徴ですな」「そうだ。アレが後に赤・青・緑、その他の鉱石を食べて成長することでルビー・サファイア・エメラルドドラゴンになるのだ」 冒険者達が必死にロックドラゴンと戦闘をしていて、巨大なハンマーで叩くと同時に爆発を巻き起こして何とか倒したみたいだ。「リチャード王が来てくださったぞ!」 俺達は到着すると、労働者達はリチャード王を見て片膝を下げて挨拶をする。「皆楽にしていいぞ。冒険者諸君もご苦労だったな」 監督官役のマッチョな男性が立ち上がり話しかけた。「リチャード王よ。今日は何か必要な鉱石でも取りに来ましたか?」「今回は違う。俺やお前達が困っていた事を、この美女達が解決しに来てくださった」「てことは……まさか、あの三種ドラゴンをですか!?」 監督官や周りの労働者達も一斉に驚く、まぁ、こんなムキムキマッチョマン達でさえ倒せない。 それなのに、魔法が使える程度の女達に何が出来るって思われても仕方ない。「ありがとうございます! 今まで幾度も挑戦してきた冒険者達でも敵わなかったドラゴンですからね。十分お気をつけください」「あっ、ありがとうござい
モーガンの屋敷に一泊させてもらった翌日。 俺達はラヴレスト城へと向かう最中、早速モーガンとロゼッタさんに現代馬車を体感してもらった。「座り心地もフカフカで良いわ、何より一切の振動も無い。それに車内で優雅に飲み物まで飲めるなんて……長旅でも飽きそうに無いわ」『それにこの上から流れてくる音楽……心に余裕が生まれてくる』 2人の趣味に合う馬車のお願いを聞いて《錬金術》で魔改造、チューニングしたから発想の幅が広がった。 過去の転移者が楽器を広めた事で、この異世界にも音楽が広まり、オーケストラは貴族の嗜みの一つとなった。 バイオリン一つだけで心が癒されるような組曲に、2人は感動しているが俺の選んだ曲のセンスが良かったらしい。 少し馬車を歩かせたら、ラヴレスト城の立派な白壁が見えてきた。 侵入者を防ぐ巨大な鉄門。 鉱山王国に相応しく、王城そのものが黒鉄と白鉄が石壁に《錬金術》で合体されて頑丈に重厚な造りになっていた。 生半可な物理・魔法攻撃では傷一つ出来なさそうに思えた。 見張りの女性兵士の2人は、リチャード王の趣味なのか美女、可愛い女となっていた。 モーガンが見張りと話した後、難なく鉄門を開いて中に入れてくれた。「そういえば、急遽来る事になって。リチャード王の迷惑にはなりませんか?『兄上は男の用件は嫌いですが、皆様みたいな美女揃いには喜んで歓迎してくれますので。ご安心を』 あまり安心したくはないが……不機嫌にならないだけマシか。 とりあえず《ネットショップ》で、手土産になる物を選んでおくか。 まぁ性欲魔人らしいからな……大人の玩具でも適当に見繕っておけば喜んでもらえるかも。 玄関先では人間・獣人・エルフという、三種族の美女メイド達が出迎えてくれた。「ようこそ、モーガン様。ハーレム王は朝食中となっております。他の女性客人が来た事を伝えた所、皆様も朝食にとご案内を命じられました」 自分とこの主をニックネームのハーレム王と呼んでいるのは意外だな。『では喜んで、私達もご一緒させてもらおうか』「かしこまりました。お客様のお荷物をお持ちしましょうか? 一応危険な物がないかの荷物チェックも兼ねたいのですが」 エルフ種の美人メイド長が、俺の手土産袋に目が入ったみたいだ。「これはリチャード王への手土産物となっています。チ
朝食を済ませて馬車を少し歩かせると、やっとラヴレスト王国に到着。 朝日を浴びた白亜の外壁。門前には商人や冒険者達が長蛇の列を作り、男性2人の見張り兵が入国検査を行なっていた。 貴族用ルートに馬車を並ばせて進むと、見張り男性が窓をノックして来て開ける。「これはゼルン殿ではありませんか!」「いつも警備ご苦労様です!」 俺は話の邪魔をしない為に、わざとメイドらしく振る舞う。「見た事もない立派な馬車でしたので何処かの貴族かと思いましたよ。こちらのメイドは……ほぉ、他国から美しく綺麗な奴隷を買い取ったのですね!」「バカモノ! ワシは奴隷商人から手を洗ったと言っているだろう! それにこの方は奴隷ではない。キャメロット王国現女王。クロエ・ペンドラゴン様だぞ。前の馬車はローゼリアンデッド王国のシグルーン女王をいらっしゃるんだ」 ゼルンは顔面蒼白色になりながら、慌てて窓から顔を出して大声で叫ぶと状況を理解したらしい。「大変申し訳ございません! おい。この二台の馬車を今すぐに通せ!」「はっ!」 見張り兵は慌てながら門を開通させてくれて、中に入れさせてもらった。 自国の商人・冒険者パーティはスムーズに通るが、他国の場合は念入りな検査は当然である。 現代には金属探知機があるから脱がなくても良いが、こっちにはそんな便利な機械がない。 簡易的なカーテンでプライバシー保護をされているが、中で脱いで持ち物検査等を受ける必要があるみたいだ。 俺は貴族特権でスルーさせてもらったのはありがたい。 ♢♢♢ 街中は朝から活気溢れている"奴隷"と言いつつ、悪いイメージはあったものの、印象は大きく変わった。 獣人種の奴隷達は働かされているが、それは強制的というよりは自ら率先して働いているという感じだな。 力自慢の獣人達は建物作りしたり、女性獣人はご主人様の老人と共に朝の屋台市場で買い物もしたりしている。「ゼルンさんはなぜ奴隷商人を辞めたのですか?」「盗賊達が何処ぞから拉致して来ても、買取手が現れるまでワシが面倒見ないといけませんからな。それに奴隷税も1人当たり分を支払いしないと……国から懲罰を受けたりしますので。真っ当な商人としては生きた商品は色々とデメリットが多いのですぞ」「そんなのもあるんですね」 奴隷制度そのものは現代人としてモヤモヤするけど、この国では一







